多摩管ブログ

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シベ5のことを少しだけ。

JUGEMテーマ:オーケストラ

「シベリウスのこと」の連載最終回は、今回演奏する交響曲第5番(シベ5)について軽くご紹介します。一般的な曲解説とは異なり、一弦楽器プレイヤーの主観によるものですが、お付き合いいただければ幸いです。

【交響曲第5番の基本情報】
“私は深い谷間に居る。朧げながら登る山が見え始めてきた。すると刹那、神がその扉を開いて、神のオーケストラが演奏する……”
交響曲のアダージョ、現世、苦悩、魂が歌う時の狂喜…”交響曲第5番の着想について、シベリウスが人にあてた手紙の中でこう綴ったそうです。
1915年12月8日のシベリウス50歳の誕生日を記念して発表されました。当時のフィンランドはロシアの支配下にあり、また、第一次世界大戦の直前で大きな不安に包まれていました。しかし、前作の第4番が、自身の病から、死の恐怖を感じながら作曲した暗く重い内容であったのに対し、第5番は、病魔を克服した喜び、晴れやかさがあります。
この曲の初演は好評を得ましたが、シベリウスはその出来に満足出来ず、曲の改訂を始めます。現在一般に演奏されている第5番は、約4年掛かり2回改訂された最終版です。大きな違いは、初稿版が4楽章構成だったのに対し、最終版は3楽章に変更された点です。

初稿版はやはり冗長で、現行版は無駄がそぎ落とされ、洗練された感じがします。ちなみに、オスモ・ヴァンスカ指揮、ラハティ交響楽団が録音しています。

Osmo Vänskä & Sinfonia Lahti


余談ですが、先週18日、19日に、名古屋フィルで第5番とヴァイオリン協奏曲、それぞれ初稿版で演奏されました。
楽譜の入手が難しく、演奏するのは容易ではないため、大変珍しい機会でありました。おそらく5番の初稿を日本のオケが演奏したのは初めてのことでしょう。
名古屋フィル第412回定期演奏会
サロネン: ギャンビット[日本初演]
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47[1903年オリジナル版]
シベリウス: 交響曲第5番変ホ長調 作品82[1915年オリジナル版]
ユッカ・イーサッキラ (指揮) 三浦文彰 (ヴァイオリン)


【演奏する難しさ・おもしろさ】
一斉に同じタイミングで音を出したり、ロマンティックなメロディを朗々と演奏するような曲ではないので、なかなか曲の良さがわかりにくいのも事実。
オケのメンバーも「この曲、なんだかよくわからないなあ」と思いながら取り組んできたのではないでしょうか。しかし、回を重ねていくうちに、少しずつおもしろさがわかってきたのか、気合が入り、音が変わっていくのがわかりました。
ということで、この曲のおもしろさ、聞きどころを少しだけご紹介します。

(1)ズレている。
連載の第1回目で触れましたが、シベリウスの楽譜は、「表拍から一斉に出るような楽譜ではなく、拍のずれ、裏拍だらけ」で、いろんな楽器がずれて音を出すように書かれています。通常、各自が小節や拍を心の中で数えて演奏するのは、当たり前のことではありますが、「正確に音がずれて聞こえるように」平常心で演奏するのは至難の業です。

1楽章(管と弦のずれ)
管楽器が表拍で音が変わるところ、弦楽器は“16分音符”の長さ分、先に出ます。(所謂シンコペーション)そのため、ほんの少しだけずれるのが正解なのですが、オケが下手で音がずれている、と思われたくないところでもあります。
ちなみにこの曲の最後(3楽章最後)も管と弦で音がずれるように書かれていますので、むしろ合って聞こえてしまったなら、残念な結果になっていると思ってください・・・



1楽章(弦楽器の縦糸と横糸?)
先にファーストヴァイオリンとチェロが出て、その後をセカンドヴァイオリンとヴィオラが出ますが、これもまた微妙にずれて音を埋めながら進んで行きます。とても神経を使う場所です。


(2)ワカレている。
たとえば、ヴァイオリンの中だけでも3つ4つのパートに分かれ、違う音を弾かなければならないことがあります。

3楽章(冒頭から次々と)
3楽章の初め、セカンドヴァイオリンからは実はこんなふうに4パートに分かれています。そして各弦楽器が加わり、音の刻みを繊細に重ねて行きます。



(3)音のモザイク
シベリウスの日記の中に、このような記述があります。
“私にとって、音楽は神が組み上げた美しいモザイクのようなものだ。神は手の中にあるすべてのピースを世界に投げ込み、私たちはそれらのピースから絵を再創造しなければならない”
3楽章、練習番号Dを過ぎて出てくる、ホルンの2分音符の「(実音で)ミ・シ・ミ・レ・シ・レ」の美しいモチーフ。ヴァイオリン、ヴィオラは同じモチーフ「ミ・シ・ミ・レ・シ・レ」を1小節、2小節とずれながら、音を埋めて響きを作って行きます。また、コントラバスが3小節ずつ「ミ」「シ」「ミ」「レ」「シ」「レ」と支えています。まさにこの部分は、音と音を寄せ合わせたモザイクのようです。




【番外編】
実はこの5番を、ピアノで演奏したものがあります。オーケストラの各楽器を全て音に出来るわけにはいきますんが、非常に良く出来ていて、またこの曲のおもしろさを感じることができます。

Henri Sigfridsson



 
演奏会当日まであと2日となりました。本番前日のゲネプロ(通しリハーサル)と、本番直前のステリハ(ステージ上のリハーサル)、そして本番と、あと3回で曲との付き合いが終わります。
半年近く付き合った曲には(たとえあまり好きではなかった曲でも)愛着がわき、本番が終わって曲から離れるのが寂しくなったりするものですが、今回もすでに寂しさが募っています。

皆様に少しでも満足していただけるよう、悔いなく良い演奏に出来たらと思っています。是非、演奏会にいらしてください!
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オススメシベリウス

JUGEMテーマ:オーケストラ

ご無沙汰しております。前回の掲載からひと月以上経ってしまいました。
年度末から新年度にかけて慌ただしく、気がついたら演奏会本番まであと1週間という事実に直面。いろいろ焦っている今日この頃です。

さて、今回第4回目はシベリウスのお勧め曲のご紹介です。
ここにあげる曲は有名なものばかりですが、実演に接する機会が少ない曲でもあります。

【弦楽器のシベリウス】
極度の上がり症でヴァイオリン弾きになることを断念したというシベリウス。有名なヴァイオリン協奏曲以外にも、ヴァイオリン小品、弦楽合奏、室内楽など、数多く残しています。

<弦楽合奏曲>
アンダンテ・フェスティーヴォ
原曲は弦楽四重奏版ですが、のちに弦楽5部の合奏+ティンパニの形式のものが1941年に出版されました。
フェスティーヴォというだけに、イベントの祝賀会向けに書かれた曲ですが、非常に落ち着いた美しい曲です。
エンディングでティンパニのロールが加わり、アーメン終止で締めくくられます。


<室内楽曲>
弦楽四重奏曲 作品56「親愛なる声」

1909年の作品です。シベリウスの弦楽四重奏曲は4曲あるそうですが、現在最もポピュラーなものはこの曲です。
シベリウスが自身の病に悩み、死を意識していた頃、まさに交響曲第4番と同じ頃に書かれたものですが、暗く内向的な音楽であります。タイトルに「Voces Intimate」とついていますが、「内なる声」と訳す方がふさわしい気がします。



【シベリウスは実は多作】
カレリアやフィンランディアだけがシベリウスの管弦楽曲ではありません。実にたくさんの曲があります。しかも日本語訳にすると変わったタイトルのものばかり・・・
「エン・サガ」「森の精」「木の精」「夜の騎行と日の出」「大洋の女神」「吟遊詩人」「歴史的情景」・・・
近年では、フィンランド出身の指揮者が日本のオーケストラと共演する際に演奏されることもありますが、なかなか聴く機会はないと思います。

音詩「エン・サガ」 作品9
「エン・サガ」とはスウェーデン語で「伝説」を意味しますが、特定の伝説をモチーフにしたのではないと言われています。第1回目で楽譜例として紹介しましたが、弦楽器のディヴィジ(各パートが分かれて弾くこと)と、管楽器の神秘的な旋律で始まります。
ちなみにこちらは、トスカニーニ&NBCの歴史的演奏です!


劇音楽「森の精」作品15
1894年、シベリウス29歳の時の作品です。スコア(楽譜)が長い間行方不明となり、発見されたのはなんと1998年。
そんな訳で、最近知られるようになった曲です。私自身は、所属していたオケで5年前に日本初演を果たしました。
プロオケでは、2年前に、フィンランド出身指揮者のオスモ・ヴァンスカ&読売日本交響楽団によって演奏されました。



【シベリウスとカレワラ】
前回にご紹介したフィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」に基づく大作2曲。シベリウスを知る上では外せません。

交響詩「クッレルヴォ」作品7
5楽章形式、70分以上の大作。ソプラノ、バリトン、男性合唱が入ります。
こちらは歌、合唱の入った3曲目「クッレルヴォとその妹」


交響組曲「レンミンカイネン 4つの伝説」作品22 
2曲目の「トゥオネラの白鳥」単独で取り上げられることが多く、全曲通しで演奏される機会は、残念ながら少ないです。
(今年2月、東京が大雪に見舞われた日、N響の公演で聴く機会がありました。いずれ番組等で取り上げられるかも知れません)
特にお勧めはこちらの1曲目の「レンミンカイネンとサーリの乙女たち」非常にドラマティックに聞こえますが、シベリウス独特の楽器の使い方がおもしろい曲でもあります。


※番外 交響詩「タピオラ」 作品112
シベリウスの最後の交響曲第7番と同時期、1925年完成の曲。「カレワラ」の物語を表現したものではないそうですが、「タピオ」は「カレワラ」登場する森の神です。「タピオラ」とは、森の神「タピオ」の領土。ちなみに“ラ”とは、〜の場所といった意味です。


【シベリウスのピアノ 例えばグールド】
シベリウスはピアノ曲も多く書いています。「樅の木」(The Spruce)なども有名ですが、ここでは「3つのソナチネ」をお勧めします。

ソナチネ Op.67
こちらはグレン・グールドの演奏です。バッハの演奏で有名なグールドですが、シベリウスの音楽にも特別な思いを持っていました。「シベリウスの5番(交響曲)なしには生きられなかった」と言っていたそうです。


グールドが演奏するシベリウスのアルバムもあります。



さて、次回最終回は、演奏会本番に向けて、交響曲第5番にまつわるあれこれを書き起こしてみたいと思います。それでは、また!
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『カレワラ』とシベリウス

『シベリウスのこと』執筆担当、ヴァイオリンのSです。 
先週末2月28日、フィンランド贔屓の人なら馴染みのあるイベントがありました。 
“カレワラの日”(Kalevalan päivä)。フィンランドの国民叙事詩『カレワラ』の出版を記念した日でした。 
『カレワラ』はフィンランド人のアイデンティティ、心のよりどころと言われ、またフィンランドの芸術に大きな影響を与えて来ました。 
シベリウスもまた、『カレワラ』にインスピレーションを得た作品をいくつも残しています。 ということで、第三回目は『カレワラ』に因んだシベリウス作品を紹介します。

 【1】『カレワラ』とは 

『カレワラ』は、持つ者に恵みをもたらすという魔法の道具「サンポ」をめぐる物語です。 
老賢者ワイナミョイネン、鍛冶匠イルマリネン、若者レンミンカイネン・・・様々な英雄たちが登場します。 
世界の大叙事詩の多くが、騎士や戦争の物語であるのに対し、『カレワラ』では騎士や武器によってではなく、歌や音楽の力で他を征服していきます。 
天地創造(卵からの創世)で始まり、キリストの到来で終わるため、「神話」とも言われています。 
『カレワラ』の初版は1835年。フィンランド各地(主にカレリア地方)で民族楽器「カンテレ」の伴奏と共に歌い継がれてきた口承詩を、 エリアス・リョンロートという医師が自ら各地を回って収集し、ひとつの物語となるように編集しました。50章2万2795行からなる長大な叙事詩です。 
ちなみに「カンテレ」はフィンランド最古の民族楽器です。『カレワラ』の中ではワイナミョイネンが巨大カマスの顎骨から作った楽器、とされています。 

「カンテレ」 (ツィター属の撥弦楽器の一種。5弦のものから39弦のものまである) 


【2】『カレワラ』はフィンランド人のアイデンティティ

中世以来スウェーデンの支配下にあったフィンランドは、公用語がスウェーデン語でした。(シベリウスもスウェーデン語の人) 
19世紀初頭には、ロシアの自治領となりました。待望のフィンランド語公用化は実現するのですが、次第にロシアによる政治的圧力が増し、 文化や宗教の違い等に違和感を感じ、人々の間でロシアに対する不満の声が高まりました。 
そうした社会情勢の中で『カレワラ』が出版されたことによって、フィンランド人に自国の文化・言語に対する自信を与え、民族意識を高め、 独立運動の精神的支えとなりました。


   


 【3】シベリウスの『カレワラ』作品

 ロシアから独立をはたせず、政治的に不安定な時代を生きたシベリウスにとっても、『カレワラ』は特別なものでした。
ここで『カレワラ』を題材としたシベリウスの代表的作品をいくつか簡単にご紹介します。

交響詩「クッレルヴォ」作品7 
シベリウス20代後半の初期の作品。ソプラノ、バリトンの独唱と男性合唱が入った5楽章形式の長大な曲。演奏時間は70分強。 
『カレワラ』では第31〜36章にあたります。クッレルヴォは税金を納めに行った帰りに美しい女性と知り合い、関係を持った。 しかし後にその女性が生き別れの妹であったことを知り、嘆いて自ら刀を刺して命を絶つ・・・という悲劇的なストーリーです。

1. 導入部  Johdanto
2. クレルヴォの青春  Kullervon nuoruus
3. クレルヴォとその妹  Kullervo ja hänen sisarensa
4. クレルヴォは戦場に行く  Kullervon sotaanlähtö
5. クレルヴォの死  Kullervon kuolema

交響組曲「レンミンカイネン 4つの伝説」作品22 
4曲からなる組曲。1896年初版から60年近くかけて何度も書き改められ、現在の形に落ち着いたと言われています。

 1.「レンミンカイネンとサーリの乙女たち」 
サーリ(島)に住む美しい娘キュッリッキにプロポーズをしたいと思っていたレンミンカイネン。彼は力も強く男前、馬ぞりの名手、モテたはずなのに、なぜかキュッリッキは振り向いてくれない。抵抗するキュッリッキを必死で口説き続け、ようやくプロポーズを受けてもらえた。

 2.「トゥオネラの白鳥」
妻キュッリッキに裏切られたレンミンカイネンは憤慨し、キュッリッキを諦めて新しい妻を見つけにポホヨラへ向かった。そこで老婆から娘をやる3つの条件を出された。そのうちのひとつが「トゥオネラ川の白鳥を一矢で射ること」であった。ちなみにトゥオネラ川とは黄泉(よみ)の国との境を流れる川である。 

3.「トゥオネラのレンミンカイネン」 
トゥオネラの白鳥を射るためにトゥオネラ川に向かったレンミンカイネン。しかし彼を恨む盲目の羊飼いが水蛇をつかんで待ち伏せていた。 水蛇はレンミンカイネンに飛びかかり、心臓をめがけて噛み付いた。レンミンカイネンは死んでしまった。 

4.「レンミンカイネンの帰郷」 
レンミンカイネンの死を察知した母は、ポホヨラの老婆から、息子がトゥオネラの白鳥狩りに出かけたことを聞き出し、トゥオネラ川に向かった。 母親はバラバラになった息子の死体を川から掻き集め、神に祈りながら体を並べ直し、創造神の膏薬を塗ると、レンミンカイネンは息を吹き返した。 

 『カレワラ』を題材とする楽曲は他に、交響的幻想曲「ポホヨラの娘」、音詩「ルオンノタル」(ソプラノ独唱入り管弦楽曲)などがあります。


   


【オマケ】 フィンランドの老舗陶器ブランド「ARABIA(アラビア)」社の『カレワラ』をテーマにした食器(イヤープレート)

先週末に出かけた北欧家具のお店で偶然見つけました。Raija Uosikkinen(ライヤ・ウオシッキネン)という女性絵付け師の作品です。 


左:1982年発売のプレート 吟遊詩人ヨウカハイネンの妹アイノが、老賢者ワイナミョイネンとの結婚を嫌がり、海に身を投じた。そのことに怒ったヨウカハイネンがワイナミョイネンに矢を向けた、という場面。 
右:1983年発売のプレート レンミンカイネンが、とある結婚式に呼ばれなかったことに憤慨し、宴会に乗り込みその家の主人を殺害。その後、小船で逃げてたどり着いた島で、男前レンミンカイネンが乙女たちに歓迎された、という場面。
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日本人はシベリウスが好きなのか?

JUGEMテーマ:オーケストラ

『シベリウスのこと』執筆担当、ヴァイオリンのSです。少し間があいてしまいました。
第二回目は、「日本人はシベリウスが好きなのか?」というテーマです。
 
シベリウスは、北欧はフィンランド生まれの作曲家です。
フィンランド航空のキャッチコピーによれば、フィンランドは「日本から一番近いヨーロッパ」とのことですが、
クラシック音楽分野では、北欧音楽に接する機会は残念ながらあまり無いと思います。
その一方で「日本人にシベリウスが好まれている」ということも言われます。本当にそうなのでしょうか。
かつての私も然り、周囲の音楽に関わっている人たちも「”シベ2”(交響曲2番)、フィンランディア以外よく知らない」と言う人の多いこと!
海外のオケマンも「日本人はシベリウスが好きと言うけど、プログラムは2番ばかり・・・」とこぼすとか。
最近でこそ、日本のプロオケでも他の番号の交響曲や管弦楽曲を取り上げるようになりましたが、積極的に演奏されることがあまりありません。
もちろん「駄作だから演奏されない」ということではありません。
日本で交響曲2番やフィンランディアばかりが演奏されるのは、「わかりやすく感動的」に聞こえるからだと思っていますが、シベリウスを語る上では、もっと他の作品に目を向ける必要があります。
是非この機会に、みなさんにいろいろな曲に触れていただきたいと思います。
 
ということで、初めに、作曲家シベリウスについて簡単に紹介します。
 
【1】ジャン・シベリウスについて

1865年フィンランド生まれ、91歳まで長生きをした北欧を代表する作曲家です。
スウェーデン系の医者の家庭に生まれ、2歳の時に父親を亡くしています。
シベリウスの父親は浪費、放蕩癖があり、亡くなった後、残された家族は苦労を強いられたそうですが、
残念ながらシベリウスはその父親の性格を受け継ぎ、成人後は借金してまでも社交にあけくれるような人間でありました。
 
子供の頃は、森や湖、自然の中に身を置いて、空想する癖があったようです。
9歳でピアノを始め、程なくして作曲も始めました。
最初の作品は「水滴」というヴァイオリンとチェロのピッチカートの曲と言われています。
15歳になるとヴァイオリンを始め、その才能を認められるようになりました。
姉がピアノ、弟がチェロを演奏し、家庭内で室内楽も楽しんだようです。
大学はヘルシンキ大学の法科に進学、同時に音楽学院でヴァイオリン、作曲を学び、最終的に音楽の道を選びました。
ヴァイオリンの腕はトップクラスで、ウィーンフィルのオーディションも受けたと言われていますが、
極度のあがり症で人前で演奏できず、ヴァイオリニストの道を諦めたそうです。
 
25歳の時には、ロシアとフィンランドの名門出身のアイノ・ヤノフェルト(19才)と婚約をしました。
アイノはフィンランド語系、シベリウスはスウェーデン語系、シベリウスはアイノとの交際により、
フィンランド語や文化に強い関心を持つようになったそうです。
なお、シベリウスは、その後、フィンランド民族叙事詩『カレワラ』を題材とした曲をいくつも書いています。
(次回、三回目の連載でそのことは触れます)
 
作品については、交響曲は1番から7番まで(途中まで書いた8番は本人の手で燃やしてしまい未発表)、
その他、管弦楽曲や室内楽曲、歌曲等、作品番号のついていないものまで数えあげると200曲以上はあります。
また、シベリウスの楽曲には「初稿版(原典版)」「改訂版」が存在することがしばしばあります。
有名なところでは、ヴァイオリン協奏曲や今回演奏する”シベ5”(交響曲5番)などが挙げられますが、シベリウス自身が初稿に納得が行かず、書き直しています。
(私たちはもちろん、現在一般的な「改訂版」で演奏します)
 
 
さて、今回のテーマに迫る上で、フィンランドという国と日本に共通するものがあるのか、という点に少し触れてみます。
 
【2】フィンランド人の「SISU」、日本人の「大和魂」
 
「日本人とフィンランド人は似ている、通じるものがある」とか言われることがあります。
しかし身近にフィンランド人の友人、知人がいることの方が珍しく、似ていると言われてもピンとこないのが当たり前だと思います。
 
ある時私は、フィンランド語の「SISU」という単語を習いました。
発音はそのまま「シス」と読みますが、フィンランド人の国民性、精神等を示す象徴的な言葉のようです。
日本語に直訳するのは難しいようで、私も漠然としかイメージできませんが、どうやら日本で言う「大和魂」というものと似ているのだそうです。
「大和魂」もまた“日本ならではの精神・知恵”等を包括的に表現する単語です。
驚くことに、フィンランド人の「SISU」も日本人の「大和魂」も、目標に向かってねばり強く、我慢強く、静かに努力する、
というニュアンスが含まれており、その精神を持って乗り越えよう、乗り越えられる、という確信、強い精神を示す象徴的な言葉として「SISU」「大和魂」があります。
 
「似ている、通じる」と言われることの意味というのは、こうした精神、国民性に共通するところがあるからなのかも知れません。
 
それとは別に、北欧建築、デザイン(アアルトマリメッコイッタラ等が有名)に共感する日本人が多いのは、
自然からインスピレーションを得たり、自然との調和の中で生まれたものが多いからとも言われています。
 
 
【3】たぶん、共感できるもの

いちプレイヤーの主観ではありますが、シベリウスの音楽には、いちいち日本人の心に刺さりやすい「何か」があります。
例えば、童謡的な懐かしいフレーズがあり、ドラマティックな旋律がありますが、それ以上に共感できる「侘・寂」があります。
無駄な音や冗長な表現をそぎ落とすことで見えてくる深淵な世界。後期作品では特にそのように感じます。
 
シベリウスには58歳で交響曲7番を発表してから約30年、作品を発表しない(創作活動は続けている)“沈黙の期間”がありました。
その理由は、自己批判傾向が強まったとか、音楽や社会への絶望、肉体的衰えなど諸説あります。
自身は晩年、「沈黙こそ雄弁」と語ったとも言いますが、作品を発表しないことに意味があった・・・のかも知れません。
 
“沈黙の期間”シベリウス83歳の作品『孤独なシュプール』
弦楽とハープ、そしてスウェーデン語の語りという編成で、たった3分程度の曲ですがとても美しく、私もとても好きな曲です。
是非お聴きください。
http://www.youtube.com/watch?v=Q9Pt9JI6y0U
 
 
【オマケ】フィンランド人のバス停待ちの様子
http://labaq.com/archives/51777669.html
これを見ると、日本人はこんな風にはならないよな・・・とは思いますけどね。
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シベリウスのこと。

Hyvää päivää!  はじめまして。ヴァイオリンのSです。

今回、シベリウスの交響曲第5番を演奏するにあたり、誰か何か書いたらどうか、という話になったそうで、
シベリウスマニアかオタクかと思われている私に声がかかりました
ちょっと詳しい程度ですが、せっかく機会をいただいたので、多くの方にシベリウスを好きになっていただきたく、あれこれ書かせていただきます。
今回含め5回、隔週更新目標で掲載していきますのでよろしくお願いします。

【はじめに・・・シベリウスとの出会い】
多摩管には16年前に入団しましたが、最近までとあるオケと掛け持ちで活動していました。
今から9年程前、「北欧好きなら、北欧音楽もやってみない?」と、
あるフルート奏者に誘われ、軽い気持ちでオケの見学に行きました。
なんとそこはシベリウス好きが集まるアマチュアオーケストラでした。
シベリウスといえば、交響曲第2番(シベ2)、フィンランディア、カレリア組曲、ヴァイオリンコンチェルトぐらいしか演奏したことがなく、
他の曲はまともに知らない状態でとりあえず練習に参加。
そこで初めて演奏した曲はとても美しく、心にすっと入ってきました。
「シベリウスってこういう音楽なんだ・・・」
と漠然と感動し、そのままシベリウスワールドへ引き込まれていきました。
ちなみにその時演奏した曲とは、交響曲第6番(シベ6)などでした。

【シベリウスの難しさに直面】
ところがその後、予想外の試練が待っていました。
なんと、『楽譜がよくわからない!!』のです。
まるで現代音楽に接しているかのような、シベ2やフィンランディア等の楽譜では見たことがない風景。

(1)一度落ちたら、なかなか復活できない。
表拍から一斉に出るような楽譜ではなく、拍のずれ、裏拍だらけ。いろんな楽器がずれて音を出すように書かれているのです。時には同じ楽器の中でも、拍がずれるように音符が書かれています。
頭の中で数えて演奏し始めても、何かがおかしい、いや、あってる?わからない・・・途中で落ちる(演奏できなくなる)と、次に出られる場所を掴むのが難しいのです。後期の作品は特にこの傾向が強く、音楽が身体に入るまで相当苦労しました。個人的には、交響曲第4番(シベ4)は史上最高の難易度でした。

(2)何ページにもわたってひたすら同じ音
例えばセカンドヴァイオリンは、シベ4の2楽章、後半の約90小節にも渡って、ひたすら繰り返しの16分音符2音で埋め尽くすよう書かれています。
まるで指の練習?それともミニマルミュージック?いう楽譜です。
※ミニマルミュージック=1960年代、アメリカ発の音楽。音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる。

(3)乱視が進む模様のような楽譜
シベリウスの楽譜では、「divisi(ディヴィジ)」、同じパートの奏者が上の声部、下の声部というように、さらに複数パートにわかれて演奏するよう書かれていることが多々あります。
その楽譜が非常に読みにくいのです。まるで幾何学模様。
たとえば、こんな楽譜があります。

『音詩「エン・サガ」』からの引用

※1stヴァイオリンが4パート、2ndヴァイオリンが2パート、ヴィオラが2パートにわかれており、これが何ページも続きます。

(4)特殊奏法で変な音を出す。
特殊奏法とは、楽器の通常の操作ではないことをやる奏法のことですが、シベリウスの楽譜では多く用いられています。
例えば弦楽器の駒に近いところで弾く「スル・ポンティチェロ(sul ponticello)」という奏法を使い、擦れたヒャーヒャーいう音でひたすら弾く曲もあります。
似たようところで、ホルンの「ゲシュトップフト(gestopft)」も良く出てきます。ホルンのベルを塞ぐ奏法ですが、ビリビリしたミステリアスな音が出ます。

 
ここに挙げた以外にもありますが、とにかく、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー・・・といったそれまでやってきた音楽とはだいぶ様子が違い、「いったいシベリウスの何がいいわけ?」とさえ、思ったものでした。

【これぞ、シベリウス!】
オーケストラのスコア(総譜、全パートの音符が書いてあるもの)を眺め、リハーサルを重ねるうちにいつからか「いやあ、こんなにおもしろいものはないでしょ!!」という気持ちに変わって行きました。
一刷毛ごとに神経を使いながら色を重ねていく絵のような感じ、とでも言うのでしょうか。
鳥のさえずり、風の音、キンとした冷たい空気、光の帯、ダイヤモンドダスト・・・
具体的に何かに例えるのは野暮ですが、自然を愛するシベリウスならではの音の世界が描かれているのです。当然、意味のない音などありません。
いろいろなことが腑に落ちてからというもの、私はシベリウスに夢中になりました。

【さて、次回以降】
初回からさっそく長くなりましたが、次回以降の予定を少しお知らせします。
2回目:日本人はシベリウスが好きなのか?
3回目:カレワラとシベリウス
4回目:イチオシシベリウス
5回目:シベ5のことを少しだけ


【追加情報】
今週末、2月8日(土)、9日(日)にN響で、交響組曲「レンミンカイネン 4つの伝説」を取り上げます。
1890年代に作られた曲ですが、その後何度も書き改められ、1950年代にようやく現在の形に落ち着いたと言われています。
残念ながら、日本のプロオケでめったに演奏されることがありませんが、この曲は構成やドラマがわかりやすく、感動的な曲です。
シベ2しか知らない、という方には是非お勧めします!


[公演情報] http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=250

最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。 Kiitos!
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連載【シベリウス】のこと

2014年4月27日(日)多摩管弦楽団第38回定期演奏会は、
シベリウス【交響曲第5番】を軸にした演奏会です。

シベリウスをこよなく愛す団員ヴァイオリンSさんが語るシリーズ
【シベリウス】のこと
連載開始します。

演奏会に向かってのお楽しみ特集として、
お読みいただければ幸いです。

JUGEMテーマ:音楽
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